2013年3月5日火曜日

岩名雅記監督「夏の家族」上映会と舞踏、アフタートーク

明大前〈キッド・アイラック・アート・ホール〉まで、舞踏家の岩名雅記さんが監督した映画「夏の家族」の上映会に行ってきた。
先日は同監督の「うらぎりひめ」の試写会を観た。
その感想はこちら

3月1日から9日まで、キッド・アイラック・アート・ホールにて同監督の全作「朱霊たち」「夏の家族」「うらぎりひめ」の連続上映会を開催中だ。
メジャーではなくインディーズの、本当に手作りの上映会で、岩名さんみずから孤軍奮闘に近い形でがんばっておられる。
今夜は上映前に岩名さんの舞踏もあるということで、楽しみにして出かけた。

時間になってまず岩名さん自身から挨拶や断りがあり、そのあと舞踏へ。
スクリーン前にスポット照明がひとつだけあるなか、着物を後ろ前に着てひたいに布をつけ、脚に鈴をいくつか付けた岩名さんが踊りはじめる。
スローモーションの動きのなかに逆に饒舌なディテールが浮かびあがり、いまここの瞬間につながっている踊り手と私たち観客のあいだをつなぐピンと張った糸の震えのようなものを感じて、飽きない。
岩名さんが踊りはじめ、変化した空気を感じた瞬間、私はその感触がまったく「うらぎりひめ」を観ているときにおぼえた感触そのものだと思い、うれしくなった。
舞踏家の岩名さんと、映画監督の岩名さんの存在がぴたりと重なった瞬間だった。

あえて言及するが、照明はホールの早川さんが担当していたんだと思う。
始まりと終わりで張りつめた明度の微細な変化は、岩名さんの踊りにたいするリスペクトの現われとしての緊張感だったのだろう。

映画の内容についてはあえて書かない。
私はさまざまなディテールがあるなか、生命讃歌を感じたし、「うらぎりひめ」と比較するのは邪道だと思いながらもあえていえば「うらぎりひめ」よりずっとおおらかで、映画製作に対する無邪気さすら感じられて好感を持ったのだが、完成度からいえばもちろんいうまでもない。
もっとも、「夏の家族」のほうが断然好き、というオーディエンスもいるだろうし、実際にいる。
とにかく観てみてほしい、というしかない。
ただし、プロの映画人が作ったような安定的な気持ちよさは期待するほうがおかしいし、ましてや商業作品のような予定調和などまったくないので、観るにはある程度の覚悟がいる。
その覚悟は、観る者の感性の自由度を試されるような種類のものだ。

上映が終わってから、トークゲストとして私と野々宮が岩名さんとアフタートークをさせていただいた。
お客さんのほとんどが残ってくれて、これにはびっくりした。
客のなかにはげろきょのゼミ生や私の知り合いが何人かいて、遠方からの人は上映後帰られたみたいだが、来てくれてうれしかった。

岩名さんの作品についての思い、映画にたいする愛情、フランスでの生活のこと、いろいろなことをお客さんからの質問を交えながら聞かせてもらえて、楽しかった。
岩名さんが私と野々宮に対して現代朗読のことを話させようという気配りをしきりにしてくれたのが、ほほえましくもありがたかった(大先輩に対してとても失礼なものいいではあるけれど)。

ハネてから、来てくれたゼミ生のみぞれちゃん、三木夫妻、野々宮卯妙と私で、近所の(ちょっと不信感をおぼえるくらい信じられなく安い)中華料理屋に寄って、軽く食事しながらビールで乾杯。
映画やトークについて盛り上がって、これも楽しかった。
キッド・アイラック・アート・ホールでの岩名雅記作品の上映会は9日まで。
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